「みんな入ってるから」「がんになったら大変だから」——医療保険に、なんとなく入っていませんか。僕もそうでした。でも、日本の公的医療保険はかなり手厚くて、人によっては民間の医療保険が「入らなくてもいい」選択肢になります。今日は感情論ではなく、公的制度の数字だけで、その判断材料をお渡しします。
このブログでは資産形成を「家づくり」にたとえています。間取りを描き(家計把握)、シロアリを退治し(固定費削減)、貯まる仕組みを作る(先取り貯金)。保険はその次の「守る」段階です。同じ「守る」段階でも、死亡保険(生命保険)の必要額の決め方は前回の記事でまとめているので、あわせて読むと保険全体の見取り図がつかめます。まだ家計の現状を把握していない方は、先に家計診断からどうぞ。
みんな、どれくらい入っているのか
2024年度(令和6)の生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」では、民間の医療保険(医療保障)の世帯加入率は95.1%。2025年度の「生活保障に関する調査」では、医療保険・医療特約の加入率は個人で65.6%でした。同じ調査で、必要と考える入院給付金の日額は平均10,100円。一方、実際に加入している金額の平均は8,500円です。
ほとんどの世帯が入っている、という事実がまずあります。だからこそ「本当に必要か」を一度立ち止まって考える価値があります。
公的医療保険はここまで守ってくれる
会社員・公務員でも自営業でも、まず窓口負担は原則3割。そしてそれ以上に強力なのが高額療養費制度です。1か月の医療費の自己負担には、所得に応じた上限が設けられています。
高額療養費制度の自己負担上限(70歳未満・2026年8月〜)
| 年収の目安 | 1か月の上限額 | 多数回該当 | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円〜 | 270,300円+(医療費−901,000円)×1% | 140,100円 | 1,680,000円 |
| 約770〜1,160万円 | 179,100円+(医療費−597,000円)×1% | 93,000円 | 1,110,000円 |
| 約370〜770万円 | 85,800円+(医療費−286,000円)×1% | 44,400円 | 530,000円 |
| 〜約370万円 | 61,500円 | 44,400円 | 530,000円 |
| 住民税非課税 | 36,900円 | 24,600円 | 290,000円 |
※上記は2026年(令和8)8月から施行される限度額です。あわせて、月単位の上限に加えて新たに「年間上限」(8月〜翌年7月の合計)が導入されました。なお、2027年(令和9)8月からは所得区分がさらに細分化される予定で、金額が変わる区分があります(例:年収約200万円未満の区分では多数回該当が引き下げられる予定)。最新の確定情報は下記の一次情報でご確認ください。 出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」/全国健康保険協会「令和8年8月から高額療養費制度が見直されます」
例:年収約500万円(区分ウ)、1か月の医療費が100万円かかった場合
窓口負担の上限は、85,800円+(1,000,000−286,000)×1% = 92,940円。厚生労働省も「70歳未満・年収約370万円〜約510万円の方が医療費100万円の治療を受けた場合、自己負担は約9.3万円まで抑えられる」と説明しており、この計算と一致します。
これに保険外の費用が加わります。
- 食事代 550円×3食×30日 = 49,500円
- 日用品・交通費など ≈ 30,000円
- 自己負担の合計 ≈ 約172,000円(個室を希望すると差額ベッド代が上乗せ)
100万円の医療費でも、実際の自己負担は20万円弱に収まります。これが公的保険の力です。
収入が減った分も、会社員なら守られる(傷病手当金)
会社員・公務員が病気やケガで働けなくなった場合、健康保険から傷病手当金が出ます。支給額は、支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割った日額の3分の2(例:月30万円なら日額約6,667円、月あたり約20万円)。連続3日間の待期のあと4日目から支給され、支給開始から通算1年6か月まで受け取れます。
出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
ただし注意点があります。自営業・フリーランスが加入する国民健康保険には、傷病手当金は原則ありません(任意給付)。この差は非常に大きく、自営業の方は考え方が変わります(後述)。
公的保険でカバーされないもの
ここが民間医療保険を検討する本当のポイントです。食事代は1食あたり定額の自己負担で、30日入院すると約49,500円。差額ベッド代は、希望して個室等に入った場合の全額自己負担で、平均7,026円/日、最高では385,000円/日という例もあります(ただし本人が同意書にサインした場合のみで、治療上の都合や病院都合なら請求されません)。先進医療費は公的保険の対象外で全額自己負担となり、陽子線治療で約278万円、重粒子線治療で約319万円といった高額な例があります。ほかに日用品・交通費・家族の見舞い費用なども自己負担です。
出典:差額ベッド代・先進医療費はいずれも中央社会保険医療協議会(中医協)の選定療養等に関する報告(令和7年)。
実際、入院1回でいくらかかっているのか
2025年度の生命保険文化センター調査では、直近の入院時の自己負担費用は1日あたり平均24,300円、1回の入院での総額は平均約187,000円で、約7割が20万円未満に収まっています。平均在院日数は28.4日(厚労省・患者調査、令和5年)で、近年はさらに短期化の傾向です。
「足りない金額」を計算してみる(年収500万円・会社員のケース)
出ていくお金が約172,000円(個室なし)。一方で減る収入は、給与約30万円から傷病手当金約18万円を引いて約12万円の減。合わせると不足の合計は約29万円です。
これに対して、医療保険を月3,000円で払い続けると、年36,000円、10年で360,000円。入院の頻度が低ければ、払う保険料の総額が、いざというときの不足額を上回ってしまう可能性があります。「保険で備える」より「貯金で備える」ほうが合理的な人がいる、というのはこういう理由です。
あなたはどのタイプか(貯蓄率で判断)
貯蓄率5%未満のAタイプは、まだ貯金が薄いので最低限の医療保険は持っておき、並行して生活防衛資金を作るのがよいでしょう。貯蓄率5〜15%のBタイプは、生活防衛資金を3か月分確保できたら、保障を減らす・見直すことを検討する段階です。貯蓄率15%以上のCタイプは、不足額(数十万円)を貯金でカバーできるので、医療保険は解約、または先進医療特約だけ残すのも合理的な判断になります。
なお自営業・フリーランスは、傷病手当金がない前提で計算し直してください。医療費より「働けない間の収入減」のほうが痛いので、医療保険より就業不能保険・所得補償の優先度が上がります。
解約する前に必ず確認すること
「不要そうだから」とすぐ解約せず、まず今の証券で入院給付金の日額と支払対象になる日数(60日型・120日型など)、一時金や手術給付の有無を確認してください。そして、全部解約ではなく、特約だけ外す・日額を下げるといった部分調整でも十分なことが多い、という点も覚えておいてください。
今すぐやること3つ
- 保険証券を出して、入院給付金の日額と対象日数を確認する。
- マイナポータルや源泉徴収票で自分の所得区分を確認し、上の表で高額療養費の上限を読み取る。
- 生活防衛資金が最低30万円あるかチェックする。
出典一覧
- 高額療養費制度の限度額・見直し内容:厚生労働省、全国健康保険協会
- 傷病手当金:全国健康保険協会
- 差額ベッド代・先進医療費:中央社会保険医療協議会(中医協)
- 加入率・入院自己負担:生命保険文化センター(2024・2025年度調査)
- 平均在院日数:厚生労働省 患者調査(令和5年)
次回は学資保険です。「子どものために」で入りがちな商品ですが、返戻率という物差しで見るとどう判断できるのか、生命保険の記事で使った考え方をそのまま応用して整理します。

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